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横浜地方裁判所 昭和63年(ワ)169号 判決

原告

森俊雄

ほか一名

被告

佐藤孝夫

ほか一名

主文

一  被告らは、原告森俊雄に対し、各自金四六万二〇〇〇円及びうち金四三万二〇〇〇円に対する昭和六二年四月二七日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を、

原告安田火災海上保険株式会社に対し、各自金八四万九四六五円及びこれに対する昭和六二年一〇月一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告森俊雄に対し、各自金五三万六〇〇〇円及びうち金四八万六〇〇〇円に対する昭和六二年四月二七日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を、原告安田火災海上保険株式会社に対し、各自金一〇四万三八五〇円及びうち金九四万三八五〇円に対する昭和六二年一〇月一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告両名の答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

発生日時 昭和六二年四月二七日午前三時三〇分ころ

発生場所 横浜市緑区東方町二〇六八番地先平台交差点(以下「本件交差点」という。)

加害車 普通乗用車(横浜五四と九六二九号)

運転者 被告佐藤孝夫(以下「被告佐藤」という。)

被害車 普通乗用車(横浜五四ほ二二六八号)

運転者 原告森俊雄(以下「原告森」という。)

事故の態様 被告佐藤は無免許で加害車を運転し、横浜市緑区東方町二〇六八番地付近を第三京浜港北インター方面から荏田方面に向かい進行し、本件交差点において一旦停止せず、かつ、右折の合図もせずに右折したため、折柄対向車線を直進走行してきた原告森運転の被害車の前部と加害車左側面が衝突した。

2  責任原因

(一) 被告佐藤は、自動車を運転し右折するに際し、停止徐行をし、かつ、右折の合図をしたうえ、対向車の動向に注意して進行し衝突事故を回避すべき注意義務があるにもかかわらずこれを怠り、右折の合図をすることも、一旦停止徐行することもせず右折進行した過失により本件事故を惹起せしめたものであるから、民法七〇九条により本件事故により原告らの後記損害を賠償する責任がある。

(二) 被告鍋島は、加害者に同乗していた訴外鍋島裕子の父親であるところ、昭和六二年四月二九日、原告森に対し、本件事故により被告佐藤が負担する損害賠償債務を同人とともに連帯して支払う旨約した(以下「本件連帯保証」という。)ので、原告らの後記損害を賠償する責任がある。

3  本件事故により原告森が受けた損害

(一) 車両修理費 九四万三八五〇円

原告森は、本件事故による被害車の損傷の修理のため右記金額を支出した。

(二) 代車料

原告森は、本件事故による修理のため、昭和六二年四月二七日から同年六月二四日まで被害車を使用できず、その間の代車料として左記金額を支出した。

昭和六二年四月二七日から同年五月二九日まで一五万六〇〇〇円

同年五月三〇日から同年六月二四日まで七万八〇〇〇円

合計 二三万四〇〇〇円

(三) 格落損 二五万二〇〇〇円

本件事故による被害車の減価は二五万二〇〇〇円を下廻らない。

合計 一四二万九八五〇円

4  原告安田火災海上株式会社の代位

原告森は、原告安田火災海上株式会社(以下「原告会社」という。)との間で車両保険契約を締結していたものであるところ、原告会社は、昭和六二年九月二八日、原告森に対し、右損害額のうち修理費用相当額九四万三八五〇円の保険金を支払い、右支払額の限度で原告森の被告らに対する損害賠償請求権を代位取得した。

5  弁護士費用

原告らは、被告らが任意に損害の支払をしなかつたため、原告ら訴訟代理人に訴訟提起を委任し、横浜弁護士会報酬規定に従い手数料を支払う旨約したが、うち、被告らに負担させるのを相当とする金額は原告森につき五万円、被告会社につき一〇万円をそれぞれ下廻らない。

6  以上によると、原告森の損害額合計は五三万六〇〇〇円、原告会社の損害額合計は一〇四万三八五〇円となるから、原告森は、不法行為による損害賠償請求権に基づき、被告らに対し、各自五三万六〇〇〇円及びうち弁護士費用を除く四八万六〇〇〇円に対する不法行為の日である昭和六二年四月二七日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告会社は、代位により取得した原告森の被告らに対する不法行為による損害賠償請求権に基づき、一〇四万三八五〇円及びうち弁護士費用を除く九四万三八五〇円に対する代位の日の後である昭和六二年一〇月一日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を各求める。

二  請求原因に対する認否(被告両名)

1  請求原因1項の事実のうち、事故発生日時に発生場所において被告佐藤運転の加害車と原告森運転の被害車が衝突したこと、被告佐藤が無免許運転であつたことは認め、その余は否認する。

本件事故の態様は、被告佐藤が右交差点を右折する際、一旦停止し、右折の合図をして右折を開始したが、直進中の被害車がスピードを出し過ぎていた為、被告佐藤が急制動するも間に合わず衝突したものである。

2  2項(一)の事実は否認し、同(二)の事実中、被告鍋島が加害車に同乗していた訴外鍋島裕子の父親であること、同被告が、昭和六二年四月二九日、本件事故による被害車の損害である車両修理費のみを全額負担する旨を約束したことは認め、その余は争う。

3  3項の各事実は知らない。

4  4項の事実は知らない。

5  5項の事実は争う。

三  抗弁

1  被告鍋島の抗弁

(一) 錯誤による連帯保証契約の無効

(1) 被告鍋島は、本件連帯保証をした当時、事実は、無免許運転による行政的ないし刑事的責任と事故の民事的責任とは別個であり、無免許運転者であるからといつて事故の民事的責任までも全て負わなければならないものではないのに、被告佐藤が無免許で運転し事故を起こした以上、民事的にも同人が全面的に責任を負わなければならないものと誤信していた。

(2) 被告鍋島は、もし右事実を認識していたならば、被告佐藤の原告に対する損害賠償債務を連帯保証することはなかつたのであり、この点の錯誤は法律行為の要素に関する錯誤であるから、連帯保証契約は無効である。

(二) 条件不成就による連帯保証契約の無効

(1) 被告鍋島は、本件連帯保証契約をするにつき、原告森が本件事故の事実を警察に届けないことを条件とした。

(2) しかるに、原告森は、その後本件事故の事実を警察に届け出たので、条件不成就により、本件連帯保証契約は効力を生じなかつた。

(三) 不法条件による連帯保証契約の無効

原告森と被告鍋島は、被告佐藤が無免許で加害車を運転し本件事故を惹起したという事実を警察に届けないことを条件として被告鍋島に不利な内容の連帯保証契約を締結したものであるから、右条件は公序良俗に反し、その結果、本件連帯保証契約は法律行為の全体に不法性を帯びるものであり、右契約は無効である。

2  被告らの抗弁(過失相殺)

(一) 被告佐藤は、加害車を運転し本件事故現場を右折するに際し、対向車線を直進中の車両があつたので、右折の合図を出した後一旦停止し、右車両が通過した後右折を開始したものであるところ、原告森は、被害車を運転するに際し、右の先行車両、一旦停止していた加害車の右折の合図をも確認せず、前方不注視のまま、制限時速五〇キロメートルの本件道路において、時速八〇キロメートル以上の速度で走行させ、本件交差点に進入したものである。

(二) 以上の事実から、原告森には本件事故発生に、少なくとも四割の過失が存したもので、原告の右過失の限度において原告らの損害賠償請求権を減額すべきである。

四  抗弁に対する認否及び主張(原告ら)

1  抗弁1について

(一) (一)の事実は全て否認する。

(二) 同(二)、(三)の各事実は全て否認する。

(三) 原告森は、被告らから一切責任をとるので本件事故を警察に届けないで欲しいと依頼され、それを了承しただけであり、本件事故の責任を被告らに押しつけた事実はなく、本件連帯保証契約に何ら不法性はない。原告森による警察への本件事故の届出は、もつぱら被告らの要請に基づいて本件事故の損害賠償を保険扱いするために行われたものである。

2  抗弁2について

(一) (一)、(二)の事実は全て否認する。

(二) 仮に原告森に過失が存するとしても、被告佐藤が無免許運転であつたこと、被告佐藤が右折の合図も一時停止もしなかつたこと、被害車が進行した道路に比べると交差道路の幅員が狭いこと等諸般の事情からして、被告佐藤の過失は大きく、原告森に過失相殺事由は存しない。

第三証拠

一  原告ら

1  甲第一ないし第一〇号証(第六、第七号証は写しを原本として提出)

2  原告森俊夫本人、被告佐藤孝夫本人、被告鍋島賢一本人

3  乙第一号証の一、二の成立はいずれも認める。

二  被告ら

1  乙第一号証の一、二

2  被告佐藤孝夫本人、鍋島賢一本人

3  甲第一、第三、第九及び第一〇号証の成立は認め、第二、第四、第五及び第八号証の成立は不知、第六及び第七号証の原本の存在及び成立は不知。

理由

一  事故の発生

1  昭和六二年四月二七日午前三時三〇分頃、本件交差点で被告佐藤運転の加害車と原告森運転の被害車が衝突したことは当事者間に争いがない。

2  そこで、本件事故の態様について検討する。

(一)  成立に争いのない乙第一号証の二及び原告森、被告佐藤(後記措信しない部分を除く。)、被告鍋島各本人尋問の結果によると、次の事実が認められる。

(1) 本件事故現場である平台交差点は、荏田方面から新横浜方面へ向かう片側各三車線の道路(以下「本件道路」という。)と港北区茅ケ崎町に向かう片側各一車線の道路(以下「交差道路」という。)とが交差する信号機により交通整理されたT字型交差点である。本件道路は、中央分離帯により区分され、新横浜方面から荏田方面へ向かう側は、本件交差点の手前で、中央分離体が狭まり右折専用の車線(以下「右折車線」という。)が設置されており、また、神奈川県公安委員会の指定により制限速度昼夜間とも時速五〇キロメートルの交通規制がなされている道路である。

(2) 原告森は、本件事故当時、自己所有の被害車を運転して、本件道路を荏田方面から新横浜方面に向かい第二車線を時速六〇キロメートルの速度で走行し、本件交差点に差し掛かつた。当時本件道路の直進車両に対する信号機は黄色の点滅信号を表示していた。原告森は、本件交差点に入る約五〇メートルないし六〇メートル手前で対向車線を走行する加害車を発見したが、加害車が右折車線を走行していないので、対向車線を直進するものと考え、そのまま走行して本件交差点の直前に差し掛かつたとき、加害車のライトの角度で加害車が右折しようとしていることに気がついたが、加害車の運転者が被害車を確認し、一時停止等の措置をとるものと考え、そのまま進行し本件交差点に進入したところ、加害車がそのまま進行してきたのを認め、危険を感じ、クラクシヨンを鳴らすとともに急制動の措置をとり、ハンドルをやや左に切つたが及ばず、被害車の前部に加害車の左側面部を衝突させた。

(3) 他方、被告佐藤は、右日時頃、加害車を運転して新横浜方面から荏田方面にむけて本件道路の中央分離帯よりの車線を進行して本件交差点に差し掛り、そのまま右折車線に入ることなく進行して本件交差点に進入し、交差点を右折しようとして、交差点から約三〇メートルから四〇メートル先に被害車を発見したが、被害車の通過前に十分右折できると判断して、右折の合図を出さず、かつ一時停止することなく右折を開始したが、被害車が本件交差点に進入する前に右折を完了できず、前記のとおり、加害車を被害車に衝突させた。

(二)  本件事故の態様につき被告佐藤の供述中に、同人は本件交差点において右折するに際し、右折の合図をしたうえ一時停止の措置をとつていたとの部分があるが、右供述は、原告森本人尋問の結果に照らすとにわかに措信できず、他に(一)の認定を覆すに足りる証拠はない。

二  被告佐藤の責任

一項で認定した事実によると、被告佐藤は、自動車を運転し交差点を右折するに際しては、右折の合図をして右折車線にはいり、一旦停止をし、対向車の動向に注意して衝突事故を回避すべき注意義務があるにもかかわらずこれを怠り、右折の合図をせず、かつ、一旦停止することなく加害車を運転、進行した過失により、本件事故を惹起せしめたものと認められるから、民法七〇九条により原告らが本件事故により受けた損害を賠償する責任があることとなる。

三  被告鍋島の責任

1  被告鍋島が加害車に同乗していた訴外鍋島裕子の父親であり、昭和六二年四月二九日、原告森に対し、本件事故による被害車の損害のうち車両修理費を全額負担する旨を約束したことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第三号証、原告森本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第五号証、原告森、被告鍋島各本人尋問の結果によると、原告森と被告鍋島は、本件事故のあつた昭和六二年四月二七日とその翌日に電話で本件事故についての話をしたこと、その際、原告森の損害について新車の買替費用の負担が考慮の対象となつていたこと、同月二九日、原告森の自宅において原告森、被告佐藤、同人の両親、訴外鍋島裕子及び被告鍋島とが本件事故の処理について話し合いを持つた際、原告森が新車購入代金を損害として主張したのに対し、被告鍋島らはこれを拒み、原告森が既に作成していた新車購入費用を被告らが負担する内容の誓約書を訂正したうえ被害車の損害を負担する内容の誓約書(甲第三号証)を作成し、これに被告佐藤、同人の母、訴外鍋島裕子及び被告鍋島が署名押印したことが認められるところ、右誓約書には負担額を被害車の車両修理費に限定する旨の記載はないこと、その後被告鍋島は原告森のため代車の手配をしたことが認められ、これらの事実を総合すると、被告鍋島は、本件事故により被告佐藤が負担すべき損害賠償義務につき、新車購入費の負担を除き、特に限定することなくこれを負担することを認めたことが推認できる。

2  錯誤の主張について

本件連帯保証契約について被告鍋島は、被告佐藤が無免許で運転し事故を起こした以上、民事的にも被告佐藤は全面的に責任を負わなければならないと誤信したものだとして錯誤による無効の主張をし、被告佐藤、被告鍋島各本人尋問の結果中には右主張に沿う供述が存する。

しかし、前記甲第三号証、原告森、被告鍋島各本人尋問の結果によると、昭和六二年七月二九日、原告森、被告鍋島らが甲第三号証の誓約書を作成した後に、被告鍋島は、原告森の保険を使いたいが被告佐藤と原告森との過失割合は八対二ではないかとの主張をしたことが認められ、これらの事実に照らすと被告鍋島は本件連帯保証に際しては、十分民事責任と行政及び刑事責任の違いを認識していたことを窺知することができ、被告鍋島の錯誤の主張を認めることはできず、他に被告鍋島の主張する事実を認めるに足りる証拠はないのでその余の事実について検討するまでもなく、被告鍋島の右抗弁は理由がなく認めることができない。

3  条件の不成就の主張について

被告鍋島は、本件連帯保証契約は、原告森が本件事故を警察に届出ないことを条件とするものであつたが、原告森は右届出をし、条件が不成就になつた旨主張する。

前掲甲第三号証、原告森、被告佐藤、被告鍋島各本人尋問の結果によると、本件事故直後原告森が警察に本件事故のことを電話で連絡しようとしたが、被告佐藤から、無免許運転なので警察に連絡しないで欲しいと頼まれ警察に連絡しなかつたこと、本件連帯保証を約した誓約書には「但し(甲1)(甲2)(甲3)の意向により警察不届」との記載があり、甲1とは被告佐藤、甲2とは鍋島裕子、甲3とは被告鍋島を指称するものであることが認められ、これらの事実によると、誓約書を作成するに際し、原告森が被告佐藤の意向をいれ、警察への届出をしないことを確認したことが推認される。

しかし、右誓約書の文言は、単に警察に届出ないことを確認するような表現にとどまり、他面、成立に争いのない乙第一号証の二及び原告森本人尋問の結果によると、昭和六二年五月二四日の話し合いに際し、原告森は、被告らに警察に事故の届出をすれば無免許運転の場合でも保険金が出るのではないか旨述べて事故の届出をすることを勧めたことがあつたこと、同年六月一日に原告森、被告佐藤、同被告の母、訴外鍋島裕子の四名で警察に出頭し、被告佐藤と原告森において署名指印のうえ物件事故報告書を警察に提出したことが認められ、これらの事実に照らすと、警察に届出をしないことが本件連帯保証の条件にまでなつていたと推認することはできず、他に被告鍋島の主張する事実を認めるに足りる証拠はないので、他の点について検討するまでもなく被告鍋島の右抗弁は理由がなく認めることができない。

4  不法条件の主張について

被告鍋島は、本件連帯保証契約は、原告森が警察に本件事故の届出をしないことを条件とするもので、全体として不法性を持ち無効である旨主張する。しかし、本件連帯保証契約が、原告森が警察に本件事故の届出をしないことを条件としていたことを認めることができないことは3に判示したとおりであり、被告鍋島の右抗弁は、その余の点につき判断するまでもなく、理由がなく認めることができない。

5  以上の検討によると、被告鍋島の抗弁はいずれも理由がなく、同被告は、連帯保証契約により原告らが本件事故により受けた損害を賠償する責任があることになる。

四  損害

1  被害車の損害について

(一)  車両修理費 九四万三八五〇円

原告森本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第四、第八号証及び原告森本人尋問の結果によると、被害車は、原告森の所有する車両であること、本件事故により被害車は破損し、原告森はその修理費用として九四万三八五〇円を支出し、右同額の損害を受けたことが認められる。

(二)  代車料 二三万四〇〇〇円

原告森本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第五、第六号証及び原告森本人尋問の結果によると、原告森は川崎市内の水産会社に勤務し、その勤務の性質上早朝の通勤が必要であるため、通勤手段として乗用車を使用する必要があつたこと、同人は、本件事故発生の日から被害車の修理が完了するまでの間、昭和六二年四月二七日から同年五月二九日までは横浜日産モーター株式会社よりレンタカーを一日六〇〇〇円(一か月一五万円)で、同年五月三〇日から同年六月二四日までは同人の知人より普通乗用自動車(日産セドリツク)を一日三〇〇〇円でそれぞれ賃借して使用し、代車使用料として合計二三万四〇〇〇円の支出をしたことが認められ、右合計額は本件事故と相当因果関係のある代車料と認める。

(三)  格落ち損害 二五万二〇〇〇円

原告森本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第七号証及び原告森本人尋問の結果によると、本件事故による被害車の修理後の減価は二五万二〇〇〇円と認められ、右減価は、本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。

(四)  以上によると、本件事故により原告森に生じた損害は合計一四二万九八五〇円と認められる。

2  原告森と原告会社との車両保険契約と原告会社の代位

前記甲第八号証及び原告森本人尋問の結果によると、原告森は、原告会社との間で車両保険契約を締結していたこと、昭和六二年九月二八日、原告会社から原告森に対し本件事故により同人に生じた損害のうち修理費用相当額九四万三八五〇円の保険金の支払いがなされたことが認められ、右により原告森の損害額は右金額を差し引いた四八万円となり、原告会社は、原告森の被告らに対する損害賠償請求権のうち九四万三八五〇円を代位取得したものと認められる。

3  過失相殺

一項2に認定の事実によると、本件事故発生の主な原因は、被告佐藤が、本件交差点を右折するにあたり、右折の合図をせず、かつ、一旦停止せずに右折したことにあるが、原告森にも制限時速五〇キロメートルの本件道路を時速一〇キロメートル超える時速六〇キロメートルで走行し、対向して進行して来る加害車を発見したが、右折をすることはないものと速断し、本件交差点の信号機が黄色の点滅を表示していたにもかかわらず速度を減速せず交差点に進入した過失があり、その他本件にあらわれた諸般の事情を併せ考慮すると、過失相殺として原告森が本件事故により受けた損害の一割を減ずるのが相当と認められる。

しかるところ、原告森の損害額四八万円からその損害の一割を減じると四三万二〇〇〇円となり、原告会社の代位した損害額からその一割を減じると八四万九四六五円となる。

4  弁護士費用

原告森本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、原告らは、被告らが任意に右損害の支払をしないため原告代理人に対し本件訴訟の提起及びその遂行を依頼したことが認められ、本件事故と相当因果関係にある弁護士費用としては認容額その他本件にあらわれた諸般の事情を考慮すると原告森については三万円が相当と認められる。なお弁論の全趣旨によると、原告会社が原告代理人に対し本件訴訟の提起、遂行を依頼したことが認められるが、原告会社の本件請求は代位による請求であつて、被告らに対し請求し得る範囲は原告会社において代位取得した八四万九四六五円の限度であり、被告らの本件訴訟の応訴、遂行からみて、不当抗争とするほどの違法性があることの事情も認められないから、原告会社の弁護士費用の請求は認めることができない。

五  結論

以上によると、本件各請求は、原告森については、被告らに対し各自四六万二〇〇〇円及びうち弁護士費用を除く四三万二〇〇〇円に対する不法行為の日である昭和六二年四月二七日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、原告会社については、被告らに対し各自八四万九四六五円及びこれに対する代位の日の後である昭和六二年一〇月一日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるのでこれを認容し、その余は理由がないので、棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言について同法一九六条一項を各適用して注文のとおり判決する。

(裁判官 木下重康 塩田直也 関洋子)

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